皮膚科・形成外科の診療を行っていて患者様からよくご相談を受けるお悩みの一つに「傷跡」の問題があります。
中でも「ホクロのレーザー治療後に傷跡が残ってしまった」というご相談は後を絶ちません。
レーザー治療前に「レーザーで治療するから傷跡が残らない」と医師から説明を受けている場合がほとんどです。
ホクロや粉瘤(ふんりゅう)の治療を初めとして皮膚の手術や傷跡の治療を得意とする普通の形成外科医であれば、「ホクロを取れば傷跡が残る」というのが当たり前の事実です。
● ホクロ除去後の傷跡について
皮膚は表面から順に表皮、真皮、皮下組織が層になって構成されています。
この中で表皮は限りなく「再生」に近い治り方をしますので傷跡が残りません。
真皮よりも深い層になると再生ではなく「修復」という治り方をするので、傷跡の組織つまり「瘢痕組織」が形成されます。
そして表皮には血管が有りませんので傷ついても血が出ません。真皮には血管が存在しますので傷ついたら血が出ます。
つまり、「血が出るケガや手術は必ず傷跡が残る」という事です!
真皮の浅い層までの傷であれば傷跡は肉眼で見て目立たない、ホクロの場合は多くは真皮深層〜皮下組織に達していますので傷跡が残ってしまいます。
● ほくろのレーザー治療について
皆さん「レーザー治療」というと最先端の優れた治療に感じませんか?
ほくろの除去で使用するレーザーは一般に炭酸ガス(CO2)レーザーを使用します。
実はほくろ治療に使用する炭酸ガス(CO2)レーザーは私が医師になった頃の20年以上前からほとんど進化していません。
一部のレーザーで「スキャナ」という機能を備えたレーザーは多様が治療が可能になっていますが、ほくろの除去で使用しているレーザーは多くのクリニックでスキャナを備えていないレーザーを使用しているか、もしくはスキャナを備えていてもそれを利用せずにほくろの除去を行っています。
シミ取りレーザーのような傷跡が残らない(厳密に言うと傷跡が人間の目で見えない)タイプのレーザとは全く異なります。
ほくろ自体は変わりありませんので「メスで切る」「炭酸ガス(CO2)レーザーで削る」「高周波で削る」など削り方が違うだけで除去するという意味では全く同じ事なのです。
中でも真皮の中層辺りまでしか達していないほくろがあり、真皮の深層まで達しているほくろより、浅く削れる分だけ傷跡が目立ちにくくなります。
言い換えれば、ほくろが無くなった時点で削るのを止める事が傷跡を奇麗にする条件の一つになりますので、当院ではコントロール性が良い高周波治療によるほくろの除去を主に行っております。
こんなお顔のホクロが高周波治療の良い適応です。
除去直後です。
局所麻酔が必要ですが、注射の痛みを和らげるために、事前に麻酔クリームを使用しています。
除去後3ヶ月です。ほくろの有った部位の凹みが目立ちます。
除去後6ヶ月です。
凹みはほぼ平坦になっていますが何となく傷跡がわかりますね。
同じく、鼻のほくろの高周波治療前です。
除去後3ヶ月ではまだ凹みと赤みが目立ちます。
除去後6ヶ月で平坦化していますが、やはり傷跡は解りますね。
ほくろのレーザー治療や高周波治療は小さめのほくろが最も良い適応です。
大きなものは切除縫合して線状の傷跡の方が目立ちにくい場合が多いです。
レーザー治療や高周波治療はサイズが大きいほくろやほくろの部位によっては水ぼうそうの跡のような、非常に目立つ傷跡になってしまう場合が有りますので、治療前に医師に十分な説明を受けるのが良いと思います。
私は思うのですが…
「レーザーで治療するから傷跡が残らない」と患者様に嘘をついて集患するのではなく、正しい情報を提供する事こそが患者様が求めていることではないかと思います。
あるいはそういう事も知らないでホクロの治療を行っている医師も居るのかも知れませんが、医療において「無知は罪」ですよね。
「ほくろの治療後には傷跡が残るが、如何に目立たない傷跡にするか」ということを患者様に説明し、ほくろの状態により最善の方法を提案する事こそが、ほくろを治療する医師の正しい姿であると強く確信しています。